「公務員」といえば、昔から安定性が高く人気の職業です。中でも国家公務員は、省庁で働く官僚や国家機関の職員など、国全体に関わる大きな仕事ができるイメージがあるため、憧れる人が多いのではないでしょうか。一方で、民間企業に比べて情報が少なく、具体的な仕事内容や採用フローがよくわからないのも事実。なんとなく「難しそう」というイメージがあるかもしれません。
そもそも国家公務員とはどんな仕事なのでしょうか。民間企業との違いや平均的な待遇、国家公務員になるための道のりを紹介します。
国家公務員の仕事
公務員は憲法で「全体の奉仕者」と規定され、公のための幅広い業務を行う職業です。中でも国家公務員は、国の機関に所属して働く公務員です。同じ公務員でも市役所の職員や公立学校の教員など自治体に紐づく地方公務員とは、業務内容も採用方式も異なります。
国家公務員の中にも、中央省庁で政策を検討する仕事、地方の出先機関に勤務する仕事、国税局や労働基準監督署など特殊な業務を担う仕事など、さまざまな仕事があります。
国家公務員の種類
現在、国家公務員は約58.5万人(※)いて、そのうち約半数が省庁の大臣や裁判官、国会議員といった国家公務員特別職に分類されます。国家公務員特別職は職務の特殊性から国家公務員法が適用されません。
今回は、残りの国家公務員一般職について見ていきます。
国家公務員 | 国家公務員特別職 |
国家公務員一般職 | 国家総合職 |
国家一般職 | |
国家専門職 |
国家総合職
国家総合職は、中央省庁の官僚として政府の政策立案や予算編成などを行います。いわゆる「キャリア官僚」と呼ばれるポジションです。将来の幹部候補として異動や出向を繰り返し、さまざまな経験を積みます。
出世のスピードが早い半面、課長クラス以降は競争も激しくなります。そのため、関係業界や独立行政法人へ転職したり、政治家や学者などに転身したりするケースも少なくありません。
国家一般職
国家一般職は、主に省庁で事務処理などの業務を担当します。本府省採用か出先機関採用かで、業務や勤務地が異なります。
本府省採用の場合、国家総合職とともに企画立案などの専門的な業務を担当します。勤務先は基本的に東京の霞ヶ関にある省庁のビルです。
地方勤務の場合、管区内の事務局で実務にあたります。ブロック採用なので、関東エリアや東北エリアなど、ブロック内のいずれかが勤務先となります。
国家専門職
国家専門職とは、国税局や皇居など特殊な職場で専門知識やスキルを発揮する仕事です。採用試験の段階で特定の職種に就くことが前提となっています。具体的には次のようなものがあります。
- 国税専門官:国税局や税務署において、税金の調査・指導などを行う
- 財務専門官:財務局にて、国有財産の活用や予算執行調査といった財政関連の業務、地域金融機関の検査・監督など金融関連の業務に従事
- 法務省専門職員:非行を犯した少年や受刑者をカウンセリングする矯正心理専門職や、再犯・再非行を防ぎ更生をサポートする保護観察官など
- 労働基準監督官:各地の労働局や労働基準監督署に勤務し、法定の労働条件の確保・改善を図る業務を行う
- 皇宮護衛官:皇族の護衛や、皇居・御用地・御用邸などの警備を行う
- 航空管制官:航空交通管制部や空港において航空交通管制業務を行う
- 外務省専門職員:語学と専門知識を武器に経済・安保・国連・条約等のスペシャリスト
国家公務員になるには
一部の国家総合職や技術職など、大学院卒や特定科目の履修が受験資格になっているものもありますが、基本的に国家公務員の採用に学歴は関係なく、学歴よりもむしろ年齢による受験制限が設けられています。つまり、高卒でも国家公務員になることはできるのです。
国家公務員試験は学歴によって受験区分が分かれています。ただしこれはあくまでも「大卒程度」「高卒程度」と試験の難易度を示した目安であり、高卒の人が大卒程度の試験を受験することは問題ありません。
最終学歴別の受験パターン
それでは、高卒・大卒・短大卒・大学院卒でどのような受験パターンがあるのか、具体的に見てみましょう。
高卒で国家公務員になる
高卒で国家公務員になる場合、国家一般職か国家専門職の高校卒業程度試験を受験するのが一般的です。この試験は、受験する年において高校卒業見込みか卒業後2年以内、または中学卒業後2年以上5年未満であれば受験することができます。
大卒で国家公務員になる
大卒なら、国家総合職・国家一般職・国家専門職いずれも受験できます。こちらの試験は21~29歳が対象ですが、社会人になってから公務員を目指す場合には40歳未満を対象とした社会人試験も受験可能です。
なお、高校卒業程度の受験資格に「卒業後2年以内」が含まれるため、大学を卒業した人が高卒程度の試験を受験することはできません。
短大卒で国家公務員になる
国家公務員試験に「短大卒」の受験区分はありませんが、基本は大卒向けの試験を受験します。国家総合職・国家一般職いずれも受験することが可能です。
大学院卒で国家公務員になる
大学院卒向けの試験として、国家総合職の院卒者試験区分が設けられています。受験資格は30歳未満で大学院を修了しているか修了見込みであることです。
もちろん、国家総合職・国家一般職の大卒程度試験を受験しても問題ありません。
採用試験
国家公務員の採用試験は非常に複雑です。総合職・一般職・専門職の区分と、院卒・大卒・高卒の程度によって試験科目や回答方式が異なります。
総合職試験
総合職試験は、大卒程度試験と院卒者試験がそれぞれ次の区分に分かれ、一つを選んで受験します。
- 大卒程度試験:政治・国際、法律、経済、人間科学、工学、数理科学・物理・地球科学、化学・生物・薬学、農業科学・水産、農業農村工学、森林・自然環境、教養
- 院卒者試験:行政、人間科学、工学、数理科学・物理・地球科学、化学・生物・薬学、農業科学・水産、農業農村工学、森林・自然環境、法務
試験の内容は次の通りです。
大卒程度試験(教養区分以外)
1次試験 | 1) 基礎能力試験[択一式、40問、3時間]2) 専門試験[択一式、40問、3時間30分] |
2次試験 | 1) 専門試験[記述式、政治・国際、法律、経済区分は3題、4時間、その他の区分は2題、3時間30分]2) 政策論文試験[1題、2時間]3) 人物試験[個別面接※参考として性格検査を実施] |
大卒程度試験(教養区分)
1次試験 | 1) 基礎能力試験[択一式、1部 24問 2時間、2部 30問 1時間30分]2) 総合論文試験[2題、4時間] |
2次試験 | 1) 政策課題討議試験[概ね2時間程度]2) 企画提案試験(小論文および口述式)[1部 1題 2時間、2部 概ね1時間程度)]3) 人物試験[個別面接※参考として性格検査を実施] |
院卒者試験(法務区分以外)
1次試験 | 1) 基礎能力試験[択一式、30問、2時間20分]2) 専門試験[択一式、40問、3時間30分] |
2次試験 | 1) 専門試験[記述式、行政区分は3題、4時間、その他の区分は2題、3時間30分]2) 政策課題討議試験[概ね1時間30分程度]3) 人物試験[個別面接※参考として性格検査を実施] |
院卒者試験(法務区分)
1次試験 | 基礎能力試験[択一式、30問、2時間20分] |
2次試験 | 1) 政策課題討議試験[概ね1時間30分]2) 人物試験[個別面接※参考として性格検査を実施] |
試験は毎年春に行われますが、院卒者試験の法務区分、大卒程度試験の教養区分のみ秋に行われるため「秋試験」と呼ばれることもあります。
参考:公務員試験ガイド
一般職試験
一般職試験も次のように試験区分が分かれています。
- 高卒程度試験:事務、技術、農業、農業土木、林業
- 大卒程度試験:行政、電気・電子・情報、機械、土木、建築、物理、化学、農学、農業農村工学、林学
高卒程度試験(事務区分)
1次試験 | 1) 基礎能力試験[択一式、40問、1時間30分]2) 適性試験[択一式、120問、15分]3) 作文試験[1題、50分] |
2次試験 | 人物試験[個別面接※参考として性格検査を実施] |
高卒程度試験(技術、農業土木、林業区分)
1次試験 | 1) 基礎能力試験[択一式、40問、1時間30分]2) 専門試験[択一式、40問、1時間40分] |
2次試験 | 人物試験[個別面接※参考として性格検査を実施] |
大卒程度試験(行政区分)
1次試験 | 1) 基礎能力試験[択一式、40問、2時間20分]2) 専門試験[択一式、40問、3時間]3) 一般論文試験[1題、1時間] |
2次試験 | 人物試験[個別面接※参考として性格検査を実施] |
大卒程度試験(技術系区分)
1次試験 | 1) 基礎能力試験[択一式、40問、2時間20分]2) 専門試験[択一式、40問、3時間]3) 専門試験[記述式、1題、1時間] |
2次試験 | 人物試験[個別面接※参考として性格検査を実施] |
大卒程度試験(建築区分)
1次試験 | 1) 基礎能力試験[択一式、40問、2時間20分]2) 専門試験[択一式、33問、2時間]3) 専門試験[建築設計製図、1題、2時間] |
2次試験 | 人物試験[個別面接※参考として性格検査を実施] |
参考:公務員試験ガイド
専門職試験
専門職試験は、管轄省庁によってそれぞれ設定されています。特定分野の専門的な職業に就くことを前提としているため、試験内容も職種によって大きく異なります。また、試験は同じ日程で行われることが多いため、複数の試験を併願受験することは基本的にできません。
官庁訪問
国家公務員の採用試験は、筆記試験に合格することが最終ゴールではありません。国家総合職、国家一般職ともに、試験に合格してから「官庁訪問」を行い、内々定を得る必要があります。
官庁訪問では、自分が志望する府省を訪問し、業務の説明や面接を受けます。同時に、志望する仕事への理解を深め、採用のための自己PRをする重要な機会でもあります。
官庁訪問のスケジュールは、毎年各府省が申し合わせて決定されます。例年、期間が5クールに分かれており複数の府省を訪問することが可能です。ただし内々定を受けることができるのは、原則として1府省のみです。
内々定・採用
それでは官庁訪問ではどのように採用可否が決まるのでしょうか。
基本的には試験の成績上位者から採用が決まるといわれています。ただし、志望する府省の人気度によっては、自分より成績下位の人が第一志望から内々定をもらっているのに、自分は内々定をもらえないというケースもありえます。
試験に合格後、3年間は官庁訪問の資格が有効です。そのため、志望する府省から内々定がもらえなかった場合、翌年再度官庁訪問をしてチャレンジすることができます。
高卒と大卒の国家公務員の違い
院卒者試験を除き、国家公務員への道は誰にでも開かれています。高卒や中卒でも国家公務員を目指すことはできますが、受験した試験によって入省後の待遇に差があります。
まずは初任給です。平成31年度4月の実績で、国家一般職の初任給は次の通りです。
- 大卒程度試験:182,200円
- 高卒程度試験:150,600円
(※いずれも行政職俸給表(一)の適用となった場合の俸給月額。諸手当は含まず)
もちろん、どちらも年次とともに上がっていきますが、スタート時点で3万円以上の差があることになります。
次にキャリアパスです。
入省後の昇給・昇格ペースは、国家一般職に比べて国家総合職の方が早いです。国家総合職には高卒程度試験はないので、高卒で国家総合職を目指すためには大卒程度試験を受験することになりますが、まわりの受験者はほとんどが難関大学の出身者のため、合格するのはかなり難しいといえます。
つまり、高卒で国家公務員を目指す場合、国家一般職の道に進むのが現実的であり、国家総合職に比べると出世ペースはゆるやかになります。
国家公務員の勤務条件
国家公務員というと残業がなく働きやすいというイメージがあるかもしれませんが、実際のところは仕事によってさまざまです。勤務時間や給与など、勤務条件もチェックしておきましょう。
勤務地
国家総合職は、若いうちに多くの経験を積み知見を得るため、全国規模で転勤があります。時には海外の拠点に赴任することもあります。
これに対して国家一般職では、エリア採用やブロック採用が多いため、異動のエリアとしては国家総合職に比べれば限定的です。
国家専門職についても、特定の行政分野に従事するため転勤、異動は少なめです。
ただしいずれも可能性がゼロというわけではなく、入省先や職務内容によって変わってきます。国家公務員を目指すのであれば、転勤する可能性があるということは覚えておきましょう。
勤務時間
国家公務員の勤務時間は公務員法で定められていて、1日7時間45分、週休2日制が基本です。一般的な民間企業と基本は同程度と考えてよいでしょう。
ただし、国会会期中や予算編成の時期は業務が増え、特に国家総合職は残業することも多くなります。
この点については現在、政府でも課題視されていて、民間企業同様に「働き方改革」を推進する方向に動き出すと見られています。
給与
内閣官房内閣人事局「国家公務員の給与(平成31年版)」によると、国家公務員の平均給与は410,940円、平均年収は約676万円です(※)。
※行政職俸給表(一)に当てはまる職員の平均額。通勤手当等一部の手当は含まない
国家公務員の給与は総合職・一般職の区分や採用試験などによって細かく定められており、さらに課長・係長といった階級に応じた俸給表にしたがって支給されます。俸給(基本給)のほか、扶養手当や住居手当、通勤手当など一般的な民間企業と同等の手当もあります。
民間企業の給与水準と同等になるよう、法律で定められているため、高額なインセンティブがない代わりに十分生活していけるだけの額が保たれているといえます。この点が「公務員=安定」といわれる由来です。
国家公務員の適性
国家公務員は国民や国益のために働く仕事です。職務によっては国の今後を左右する重要な役割を果たすこともあります。そのため、「誰かの役に立ちたい」という使命感や奉仕の精神、最後まで責任を持ってやり遂げる正義感が求められます。
また、一人きりでこなす仕事はほとんどなく、部署内外・他省庁・取引先など多くの人と関わります。相手の話を誠意をもって聞く、必要な情報を的確に伝える、物事がうまく進むように調整するなど、一定のコミュニケーションスキルも必要です。
国家公務員になるのに有利な学部
一部の技術系職種・専門職を除いて、国家公務員になるのに有利な学部・不利な学部というものはありません。試験は文系科目・理系科目ともに出題されますが、試験対策を十分に行えば回答できます。
あえて言うなら、試験科目の比重が大きい法律や経済分野の知識があると得点しやすいため、法学部や経済学部はやや有利といえます。ただし公務員試験は大学受験と異なるので、過去問や参考書で公務員試験の対策をしておくことが必須です。
まとめ
一般的にイメージされる国家公務員には、国家総合職、国家一般職、国家専門職があり、その採用試験は、試験区分と大卒向け、高卒向けなどの難易度別に分かれています。高卒でも国家公務員を目指すことは十分に可能ですが、キャリア官僚と呼ばれる国家総合職は難関大学出身者が多く、難易度は高いといえます。
国家公務員になるために有利・不利な学部はありませんが、大学受験とは別の対策が必要なので、興味のある人は今から情報収集と準備を始めましょう。