高校を卒業して大学進学するためには、多額の費用が必要です。奨学金を受給する学生の割合は、平成28年度調査で48.9%、平成30年度調査で47.5%と若干の減少傾向にありますが、それでも全体の半数近い学生が何らかの奨学金制度を利用していることが分かります(※)。
依然として金銭的支援を求める学生が多いことから、文部科学省は「高等教育の修学支援新制度」を2020年4月に設けるなど、新たな取り組みも始まりました。
今回は、「学び」を助ける大きな役割を果たす奨学金について、制度の概要や利用するメリット・デメリットを解説し、利用できる奨学金制度をいくつか紹介します。
※参考:平成30年度学生生活調査|独立行政法人日本学生支援機構
奨学金制度とは
奨学金とは、経済的な理由で修学な困難な学生に対し、学資を給付または貸与する制度です。「お金がない」ことを理由にして将来を諦めたり自分の進路に制限をかけたりする学生を減らし、平等な教育機会を設けるための意義ある制度として知られています。まずは、奨学金制度の概要について紹介します。
債務者は学生本人
奨学金の債務者は、学生本人です。そのため、基本的には自分自身でお金を借り、返済する義務を負うと理解しておきましょう。「自分の責任」が生じることを念頭に置き、進路や将来設計と照らし合わせながら、奨学金の利用を検討する必要があります。
子どもの進学費用や学費を捻出するために保護者が債務者となって用意する「教育ローン」とは性質が異なりますので、分けて考えましょう。
保証人は選択できる
返済が必要な奨学金を借りる上で、必ず「保証人」が求められます。保証人は、連帯保証人と保証人を立てるか、もしくは機関保証に加入するかの2種類から選択できます。
連帯保証人
連帯保証人とは、主たる債務者である学生本人が奨学金の返済を行わなかったとき、本人に代わって返済をする義務を負う人のことです。主たる債務者の返済能力の有無に関わらず、奨学金を貸した側は直接連帯保証人に返済を要求できます。奨学金の場合、基本的には父母が連帯保証人になります。
保証人
保証人とは、連帯保証人同様、主たる債務者である学生本人が奨学金の返済を行わなかったときに返済を求められる人のことです。ただし、主たる債務者に返済能力がないと正式に認められたときのみ、返済の義務が生じます。
奨学金の場合、保証人を4親等以内の誰かに指定するよう求められているケースが大半です。叔父、叔母、成人して一人立ちしている兄弟姉妹など、自分と別生計にある人を選ぶ必要があります。
機関保証
機関保証とは、日本国際教育支援協会などの保証機関が、学生の親族に代わって連帯保証を行う制度のことです。親族に保証人になってもらう必要がない一方、奨学金から毎月一定額が保証料として差し引かれます。
奨学金の種類
奨学金の種類は、大きく2つに分類できます。それぞれの特徴を解説します。
給付型奨学金
給付型奨学金とは、返済が不要な奨学金のことです。卒業後に返済の義務が課せられないため金銭的なリスクが少なく、授業料だけではなく入学金や留学費用に充当できる奨学金も豊富に用意されています。
ただし、世帯収入、学力、学習意欲、生活態度など複数の要素を厳正にチェックして審査が行われます。
貸与型奨学金
貸与型奨学金とは、卒業や退学後に返済の義務が生じる奨学金です。返済されたお金をまた次の世代の奨学金として使用する「リレー式」を採用している団体が多く、返済の意義や将来性について理解する必要があります。
また、返済に当たって利子が生じる「有利子型」と、利子が生じない「無利子型」に分けられます。申し込む際は、利率も確認しておきましょう。
奨学金制度を利用するメリット
奨学金制度を利用することで得られるメリットについて解説します。
進学を諦めなくて済む
奨学金制度は、教育を受ける機会を平等にし、学生一人ひとりが本当に学びたいことを学ぶために作られました。必要な資金を捻出できない場合や、保護者の反対により資金が得られない場合でも、進学を諦める必要がありません。
学業に専念できる
奨学金制度を利用することで、学費を捻出するためにバイトを複数かけ持ちしたり、休日や深夜の時間を削って働いたりせず、学業に専念できます。
金利が低い
銀行から借りる教育ローンや、その場しのぎの消費者金融よりも、奨学金のほうが圧倒的に安い利子で借りられます。無利子型の奨学金や給付型奨学金を借りられれば、学生や家庭にかかる負担は更に少なくなります。
奨学金制度を利用するデメリット
奨学金制度を利用するデメリットやリスクについて解説します。
返済の義務がある
貸与型奨学金の場合、当然ながら返済の義務が生じます。「奨学金」という名がついていますが、あくまでも「借金」であるということを忘れず、返済計画をきちんと立てた上で手続きを行いましょう。
万が一返済が滞った場合、連帯保証人や保証人に迷惑をかけることになります。また、自分の名義がブラックリスト登録され、将来家や車を買うためのローン申請が通らなくなったり、クレジットカードが作れなくなったり、ショッピングの分割払いが利用できなくなったり、生活を送るうえでさまざまな不便を強いられます。
保証人を求められる
奨学金を借りる際は、連帯保証人や保証人を立てる必要があります。機関保証を選択した場合でも、貸与を受ける奨学金額から毎月一定の保証料が控除されますので、金銭的な負担がかかります。自分一人だけでは借りることができず、保護者や親戚にも理解してもらう必要があります。
選考基準がある
奨学金は、希望すれば誰でも借りられるわけではありません。家計状況、成績状況などを細かく審査にかけ、選考基準を通過した人のみが利用できる制度です。選考基準は利用する奨学金制度ごとに異なりますが、低所得家庭、好成績学生を優先に貸与する傾向にあります。
奨学金だけでは足りない場合がある
奨学金を無事利用できることになったとしても、それだけでは学費の全てを賄えない可能性があります。学費だけではなく、入学金、教材費、ゼミや留学に別途かかる費用、一人暮らしする際の生活費など、学生生活全てにかかる費用を計算しておきましょう。
もし不足する場合、別の奨学金をかけ持ちで利用するか、バイトをして補うか、費用の一部を保護者に負担してもらうか、方策を練っておきます。
卒業後の就職先が指定されている場合がある
制度によっては、卒業後の就職先や進路が指定されている場合があります。
たとえば防衛省の貸費学生制度では、医学、歯学、理学、工学を専攻する学生のみを対象としており、卒業後は自衛隊で勤務する必要があります。同様に看護学校の奨学金においても、卒業後に指定の病院で3年勤務することを条件として返済義務を免除とするなど、条件付きの奨学金も多いため必ず確認しておきましょう。
進学のために利用できる奨学金
では実際に、進学に当たり利用できる奨学金をいくつかピックアップします。制度ごとの特徴や対象要件についても記しますので、自分に合ったものを選択しましょう。
高等教育の修学支援新制度
令和2年4月から新しく始まる新制度で、文部科学省主導の奨学金制度です。世帯収入、進学先の学校の種別(大学・短期大学・専門学校など)、自宅から通うか一人暮らしをするか、によって給付される金額や選考基準が異なります。
参考:学びたい気持ちを応援します 高等教育の修学支援新制度|文部科学省
授業料や入学金の免除もしくは減免
入学後3か月以内の定められた期日までに、通学する大学を経由して本制度に申し込み審査を通過した人であれば、授業料のほかに入学金の免除または減額を受けることができます。
給付型奨学金
毎年2回、4月頃と9月頃に通学する大学を経由して申し込めます。3ヶ月後を目安に審査の結果が届きますので、審査に通過し次第、大学にも授業料減免の手続きをしましょう。
貸与額は家計状況によって変動しますが、上限が設けられていますので、事前に公式ホームページから試算しておきましょう。
日本学生支援機構(JASSO)の奨学金制度
経済的理由で修学が困難な優れた学生に学資の貸与を行い、また、経済・社会情勢等を踏まえ、学生等が安心して学べるよう「貸与」または「給付」する奨学金制度です。日本の大学生の約3人に1人が日本学生支援機構の奨学金を利用しています。
参考:日本学生支援機構
国内奨学金
国内の大学・短期大学・高等専門学校・専修学校(専門課程)および大学院で学ぶ人を対象とした奨学金です。給付型奨学金と貸与型奨学金に加え、入学時の一時金として貸与する「入学時特別増額」があります。
海外留学奨学金
海外留学をする学生を対象とした奨学金です。協定校に8日以上留学する際に申請できる「協定派遣奨学金」と、海外の大学で学士号を得ることを目的として留学する際に申請できる「学部学位取得奨学金」とに分けられます。それぞれ、留学する地域によって毎月得られる奨学金額が異なります。
第一種奨学金
無利子での貸与となる奨学金制度です。有利子の奨学金と比較して、特に優れた学生および生徒で経済的理由により著しく修学困難な人を対象としているのが特徴的です。
大学通学者の場合、月額20,000円~64,000円の範囲から、家計状況や成績状況に応じて決定されます。
返済方法は、毎月決まった額を返済していく「定額返済方式」と、前年の所得に応じて返済額が変動する「所得連動返還方式」の2種類から選択できます。
第二種奨学金
有利子での貸与となる奨学金制度です。大学通学者の場合、月額20,000円~120,000円(10,000円刻み)の範囲から選択できます。
医学部と歯学部の場合は上限から更に40,000円の増額、薬学部と獣医学部の場合は上限から更に20,000円の増額が可能です。
大学独自の奨学金制度
多くの大学では、独自の奨学金制度を採用しています。進学を希望する大学のホームページを確認したり、オープンキャンパスや説明会で質問したりすることで制度を学べますので、志望校選択の際には参考にしてみましょう。いくつか、特徴的な奨学金制度を紹介します。
早稲田大学「めざせ!都の西北奨学金」
早稲田大学が採用している「めざせ!都の西北奨学金」は、首都圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)以外の国内高等学校出身者を対象とした奨学金制度です。
入試出願前に申請するのが特徴で、早稲田大学の合格をもって奨学金制度利用の資格が得られ、入学手続きと同時に学費の減免が受けられます。
立教大学「田中孝奨学金」
立教大学が採用している「田中孝奨学金」は、世界トップレベルのミニチュア・ロープ専門メーカー、トヨフレックス株式会社の創業者である田中孝さんの寄付によって、コミュニティ福祉学部の学生を対象に創立された奨学金制度です。
児童養護施設に入所している学生であること、もしくは東日本大震災により被災した学生であることを要件として設けています。状況に応じ、学費の全額もしくは一部が給付されます。
参考:立教大学「田中孝奨学金」
東洋大学「独立自立支援奨学金制度」
東洋大学が採用している「独立自立支援奨学金制度」は、夜間に第2部(イブニングコース)で学びながら、日中は東洋大学の事務室や関連施設で働き、学業と労働を両立させたい人を対象とした奨学金制度です。給料を得ながら学べるというのが最大の特徴で、奨学金により学費の半額が賄えます。
金沢工業大学「リーダーシップアワード」
金沢工業大学が採用している「リーダーシップアワード」は、国立大学の標準学費との差分を給付する奨学金制度です。
正課の授業と、金沢工業大学の課題活動の両方で優秀な成績を得た学生と対象としており、学費が比較的高額になりやすい私立大学における理工学の学びおいて、国公立大学と変わらぬ負担で通学できるよう配慮されています。
地方自治体の奨学金制度
地方自治体が独自で奨学金制度を採用している場合があります。居住している市区町村だけではなく、大学がある市区町村、出身地となる市区町村でも利用できる場合がありますので、それぞれの制度を検索してみましょう。
日本学生支援機構のホームページにて、奨学金制度を採用している全国の自治体が検索できます。
参考:日本学生支援機構「大学・地方公共団体等が行う奨学金制度」
あしなが育英会の奨学金制度
あしなが育英会は、病気や災害、自死(自殺)などで親を亡くした子どもたちや、親が重度障害で働けない家庭の子どもたちを支える民間非営利団体です。このような学生を対象として、奨学金を給付または貸与しています。
大学・短期大学奨学金
大学もしくは短期大学に進学する学生を対象とし、月70,000円(内貸与4万円・給付3万円)または月80,000円(内貸与5万円・給付3万円)を貸与する制度です。
専修・各種学校奨学金
専門学校やその他学校に進学する学生を対象とし、月70,000円(内貸与4万円・給付3万円)を貸与する制度です。
大学院奨学金
大学院に進学する学生を対象とし、120,000円(内貸与8万円・給付4万円)を貸与する制度です。大学院奨学金を利用するためには、過去に大学・短期大学奨学生である必要があります。
私立学校入学一時金
私立大学に進学する学生を対象とし、入学の際に必要な費用を補助するために40万円を貸与する制度です。奨学金の申請と合わせて申し込む必要があります。
新聞奨学生制度
新聞社が学費の一部もしくは全額を負担する代わりに、在学中に新聞配達業務を行う奨学金制度です。朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、日本経済新聞、東京新聞、西日本新聞がこの制度を採用しています。
奨学金の金額や勤務時間などは、新聞社により扱いが大きく異なります。朝刊夕刊共に配達が必須である場合や、中途退学をする場合は過去に支給された奨学金額全てを一括返済しなければいけない場合など、特記事項があるケースがあります。事前によく確認しておきましょう。
防衛省の貸費学生制度
防衛省の貸費学生制度は、大学または大学院で医学、歯学、理学、工学を専攻し、卒業後は自衛隊員として勤務する意志を持つ学生を対象とした奨学金制度です。学校で学んだ知識やノウハウを活かし、将来は技術系幹部としてキャリアを積みたい人向けの制度だといえるでしょう。
毎月54,000円が貸与されますが、自衛官として一定年数以上勤務することによって返還義務が免除されます。
参考:防衛省「貸費学生」
看護学校の奨学金制度
看護学校が学費の一部もしくは全額を負担する代わりに、卒業後の入職を約束する制度です。
奨学金の額や求められる学業成績は学校ごとに異なりますが、卒業後は提携病院にて一定年数以上の勤務をすることで返還義務が免除されるケースが多いです。就職活動をする必要がなく、学業に集中できるというメリットもあります。
まとめ
奨学金制度は、家計状況に左右されず、全ての学生に等しく学びの機会を与えるためにある非常に有意義な制度です。一方で、無計画に申請することによって本来必要な学費に満たず中途退学を余儀なくされたり、卒業後の返済に苦しんだりすることもあります。志望校の学費をしっかり計算し、自分が利用できる奨学金制度を徹底的に調べることで、限りなくリスクを減らした状態で申し込むようにしましょう。