近年、AI(人工知能)の発展は目覚ましく、農業や製造業といった幅広い業界に技術革新をもたらしています。世界的にもAIの需要は高まっており、中国では中高生にAI教育を提供するプロジェクトも始動しています。
今回は、世界的に多くの業界で求められているAI人材について、必要なスキルや活躍フィールド、AIを専門に扱う大学・学部などを紹介します。
AI人材とは
AI人材とは、機械学習やディープラーニング(深層学習)、データサイエンスなどの技術を活用してAIシステムを構築したり運用できたりする人材を指します。
AI人材とIT人材の違い
IT人材は、自ら問題の解き方や条件をプログラミングし、システムが求めた処理を正しく実行できるようにすることが主流です。
これに対してAI人材は、自らは学習の手伝いをするのみで問題の解き方や条件をプログラミングするに留まりません。AIでは機械学習やディープラーニングなどの技術がベースとなっており、システムに膨大なデータを学習させることで自発的に問題の解き方や判断ができるようにする技術が求められます。
AI人材が求められる背景と高まる価値
AIには、少子高齢化や地球温暖化、資源の枯渇など、あらゆる社会問題の解決に貢献する可能性があります。たとえば少子高齢化による労働不足については、AIに労働を代替させることで仕事効率化・創造性の高い仕事にリソースを割くことができるようになることを期待しています。ほかにも地球温暖化といった複雑な要因が絡み合った社会問題でも、AIを活用した膨大なデータ解析が不可欠となっています。
とくに日本では少子高齢化という構造的な課題に対して、労働代替・効率化する意味で相性のいいAIに期待が高まっています。
人気のAI人材
ひとことでAI人材といっても、実際にはAIを開発する人や研究する人、実装、活用する人などさまざまな役割があります。代表的なものをいくつか出します。
AI研究者
大学などでAIを実現する数理モデルについて研究を行う人材です。AI に関連する分野で学位を有し研究に従事する者や、AI に関する学術論文を執筆・発表した実績があるような人材を指します。
AIに関する応用研究を通じて、新たなアルゴリズムや社会課題の提示といった標準化を推進する役割を持ちます。
AIエンジニア
設計されたAIシステムを周辺技術と組み合わせることで、AI機能搭載のソフトウェアやシステムを開発できる人材を指します。たとえば、データや既存のAIライブラリを利用してAIを構築します。
AIプランナーやSEとの橋渡しや、経験や知識によってはAIの性質を踏まえたITシステムの企画・設計から担当することも求められます。
データサイエンティスト
ビッグデータを分析し、課題発見や事業戦略を導き出す役割を持ちます。AIモデルやシステムの構築・運用どちらでも欠かせないAI人材です。
ディープラーニングの精度を上げるために重要なビッグデータを分析・解析できるデータサイエンティストは、企業の競争力を左右する重要な役割として需要が高まっています。
AIプランナー
AIで実現可能なことや難しいことを理解し、ビジネスを主導できる人材を指します。具体的には、AI活用の企画や提案、周囲と調整する役割を持ちます。ビジネスの課題や新規ビジネスの立ち上げなどで活躍の場があるでしょう。
技術スキルは高い水準では求められませんが、AIの知識に精通しつつ顧客レベルまで噛み砕いて説明ができる高いコミュニケーション能力が必要です。
AI人材として必要なスキル
AI人材を目指すにあたり、具体的にどのようなスキルを習得するべきか紹介します。
プログラミング
AI人材に必要なスキルのなかでは、プログラミングは習得するのが易しいでしょう。プログラミングを通して、AI人材として必要不可欠な知識「ディープラーニング(深層学習)」を理解できるようになります。これからAI人材を目指す方は、ディープラーニングの基礎を学ぶためプログラミング言語の一つであるPythonから学習するといいでしょう。
ビッグデータ分析
ビッグデータとは、人間では通常扱うことができないほど膨大な情報(データ)のことです。IT技術の進歩により大量の情報を集めることは可能になりましたが、それらのデータから価値あるものを選択・分析し、実用的に活かすための知識とスキルが必要です。
機械学習
その名の通り機械が学習し、判断を人間(もしくは人間以上に正確な判断)に近づけるものです。機械学習はディープラーニングと同列で語られることもありますが、正確にはディープラーニングは機械学習の実装手法の一つでしかないので、機械学習全般の知識を身につける必要があります。
AI倫理
AI技術の進歩が今後も進むと、「AIが人間のように意志を持ち始めたら人権を与えるべきか」「AIが人間と同じ空間で共存することになればどう関わっていけないいのか」などの課題を考える必要が出てきます。単なるAI関連の技術だけでなく、技術進歩の裏側にある問題を事前に発見し、どう向き合っていくのがよいか考えるのもAI人材として必要な能力です。
AI人材の活躍する業界
AIは、製造業や金融、小売、医療などあらゆる分野での活用が広がっています。
IT全般(チャットボット / IP電話)
自社でAIを利用したサービスを開発したり、取引先からの要望でAIサービスを開発・運用したりするケースがあります。代表的なAIサービスは、チャットボットやIP電話です。
チャットボットとは、ロボットと自動でチャットができるアプリケーションのことです。チャットボットには、チャット内容を予め用意しておく「ルールベース型」と、AIが自動で最適なチャットを作り出す「AI型」の2種類があります。AI型を使えば自動で営業を展開できるので、多くの企業でインサイドマーケティングとして活用されつつあります。
IP電話では、クラウドIP型電話「Miite(ミーテル)l」が最近話題です。AIによる電話の音声解析により、成約率の高いセールマンの営業トークを可視化することができます。BtoBビジネスを展開する企業で新たなオンラインマーケティングとして注目を浴びています。
医療・介護
医療では、最近ですと「新型コロナウイルス」についてハーバード大学などでは感染拡大予測にAIが使われています。人口、人の移動、地理などあらゆる条件をAIが解析し、感染拡大を予測しています。ほかにも、AIによる病気の問診・診断機能などの開発が進められており、病気の診断精度を向上させるよう働いています。
介護では、深刻な人手不足を補うため介護ロボットの開発が進んでいます。たとえば、人の表情や音声をAIが学習し、人間らしいコミュニケーションを実現してくれるといったものです。老人ホームや一人暮らしの高齢者の方に向けて提供されつつあります。
建築・製造
建築・製造業では自動運転技術が注目されています。どちらの業界でも労働者不足や生産性向上はもちろん、危険だったり辛い作業を減らす取り組みとしても期待されています。自動運転技術では、Googleが分社化した「Waymo(ウェイモ)」のほか、トヨタや日産、マツダなどの国内の各自動車メーカーが開発に力を入れています。
AI関連のおすすめ本
『人工知能は人間を超えるか』松尾豊
人工知能の第1人者である松尾豊教授の書籍です。人工知能・AIに関して、易しく解説されています。統計学に関する知識がなくてもとっつきやすい内容となっています。AIのなかでも、ディープラーニング関連の話が多く取り挙げられ、例を挙げながら特徴表現や解析手法、変数についてなど概念的なことを解説します。
何冊かAI関連本を読んだことのある人には少し易しいかもしれませんが、まだまったく読んだことがない人は、一度読んでみることをおすすめします。
『俺たちひよっこデータサイエンティストが世界を変える』ウマたん
データサイエンティストの実際の仕事について、ストーリー形式で書かれた珍しい著書です。著者は、実際に企業でデータサイエンティストとして働きながら、データサイエンスとビジネスを繋ぐためのメディアサイトやYoutubeでコンテンツ発信をされています。
本書は難しい単語も出てきますが単語の解説もあり、また物語調なので初学者がまずデータサイエンスの扉を開けるにはおすすめです。価格も300円程度と手頃なうえ、Kindle unlimitedであれば無料で読むことができます。
『データ分析のための数理モデル入門』江崎貴裕
著者は、東京大学先端科学技術研究センターの特任講師をされています。全ページ、フルカラーで世の中に存在するさまざまな数理モデルが網羅されています。数式も少ないので体系的に数理モデルを学べます。広範な内容を取り扱っているので、初学者だけでなく中級者以上にもおすすめです。
あらゆる数理モデリング手法からどう選び、どのようにモデルを作ればいいのか、そして作ったモデルをどう評価すればいいのかまで書かれていることが多くの読者から高評価を得ています。
大学におけるAI関連学部
各地の大学や企業で、AI人材を育成する動きがあります。大学では、AI人材を養成するための学部や学科が開設されてきています。
滋賀大学 データサイエンス学部
日本初のデータサイエンスに特化した学部です。統計学と情報工学の基礎をベースに、さまざまな応用分野におけるデータ分析手法を学びます。
データから価値のある情報を取り出し、それを意思決定に活かす能力をつけるため、情報・統計関連科目ばかりではなく、経済・経営学などの文系科目やビジネス分野の第一線で活躍する講師を招いた授業が行われています。そのほか、データサイエンス教育研究センターを通じて、共同研究、研修提供、コンサルディング提供、寄付金受領、インターン派遣等、さまざまな企業・団体と結びついており勉強にしっかり打ち込める環境が整っています。
公式HP:https://www.ds.shiga-u.ac.jp/
名古屋大学 情報学部 コンピュータ科学科 ・知能システム系
機械学習や映像・音声・言語などのマルチメディア処理技術、知能システム技術などを専門的に学びます。文系受験の1学科と理系受験の2学科の合計3学科で構成されます。入学後、3年生への進級時に転学科することも可能です。
専門性を深めるだけでなく、情報倫理や法律、マネジメントなどの科目を通して社会との関係性を重視した思考を身につけられます。
そのほか、1年を4期に分けるクォーター制や、3年生と4年生の前期の第2期を空けるなどで、海外留学やインターンシップに参加しやすいシステムも魅力です。
公式HP:https://www.i.nagoya-u.ac.jp/si/cs/
横浜市立大学 データサイエンス学部 データサイエンス学科
首都圏初のデータサイエンス学部で、統計学・アルゴリズムの基礎をベースとして、経済・経営学、理学、医療統計学など、データサイエンティストとして活躍するために必要な知識を個人の関心に応じて習得します。
実習では、企業や医療機関などデータが発生する現場で、コミュニケーション能力や課題発見・解決力を身につけられるようになっています。そのほか、海外で通用するためのコミュニケーションレベル習得のため、TOEFL-ITPで500相当以上が3年次への進級要件とされており、高水準の学習環境が整っているのも特徴です。
公式HP:https://www.yokohama-cu.ac.jp/academics/ds/index.html
武蔵野大学 データサイエンス学部・データサイエンス学科
ビッグデータやAI、クラウドなどの学習を基礎に、Pythonを用いたプログラミングやデータサイエンスに関する広範な知識を身につけます。
国際的に活躍するデータサイエンティストによる講義や実習があり、実際に現場で使われているデータ活用のアイデアやスキルを学ぶことができます。低学年次から、企業との共同研究や官公庁からの委託研究に携わるなど、社会の課題に対する実践的な学修を行うことで、データ分析を社会に活かすための手法や視点、考え方を身に付けられるのも特徴です。
公式HP:https://www.musashino-u.ac.jp/academics/faculty/data_science/
まとめ
AI人材は、世界中でますます需要が伸びていきます。AIは開発から導入まで、さまざまな役割を持った人材がいます。まずは、自分がAIを使って「何をしてみたいか」イメージしてみてはいかがでしょうか。