日本の学校教育で身に付かない批判的思考力とは

Edv Magazine 編集部

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日本の学校教育で身に付かない批判的思考力とは

学校は子供が始めて触れる「社会」です。義務教育である小学校から中学校までの9年間で、その後の人生に少なからず影響を与える、志向や思考の基礎が形成されます。

もしその基礎作りがされる学校教育が歪んでいたらどうでしょう。子供にとって学校はほぼ唯一の「社会」であるため、他に比較するものが少なく、不可解さやおかしさに気づくことは難しいかもしれません。

今回は、日本の学校教育の現状についてデータをもとに現状を把握し、世界的に遅れをとっているとされる「批判的思考力」に焦点を当てていきます。

学校教育の現状

日本の学校教育の現状について、OECD(経済協力開発機構)が実施している「国際教員指導環境調査(TALIS)」の第3回調査結果(2018年)に基づいて見ていきます。

TALISは小学校・中学校の学習環境と、教員及び校長の勤務環境について実態把握をする国際調査です。日本を含む48の国と地域が対象となっています。

ちなみにOECDとは、経済・開発・貿易について国際的に協議することを目的とした国際機関です。現在37カ国が加盟し、アメリカやヨーロッパ諸国、日本など先進国がその多くを占めています。

批判的思考をする機会が少ない

TALISの質問項目「批判的に考える必要がある課題を与える」において、自らの授業において「しばしば」または「いつも」行うと答えているのは、日本の小学校教員が11.6%中学校教員が12.6%という結果になっています。

一方で参加国の平均は中学校教員が61.0%、小学校教員が51.8%です。また日本以外で割合が低い国でも約30%以上はあります。日本は圧倒的最下位です。

国(※一部抜粋)批判的に考える必要がある課題を「しばしば」または「いつも」与えていると回答した割合(中学校)
オーストラリア69.5%
ブラジル84.2%
フランス50.3%
韓国44.8%
アメリカ78.9%
日本12.6%

回答者が教員であるという点で主観的な回答データであることは否めませんが、日本の義務教育は批判的思考をする機会に恵まれないことが事実として浮き彫りになっています。

正解のない問いに向き合う機会が少ない

批判的思考とは別に「明らかな解決法が存在しない課題を提示する」機会について設問がTALISにあります。自らの授業において「しばしば」または「いつも」行うと答えた日本の教員は、小学校で15.2%中学校で16.1%という結果が出ています。

こちらも批判的思考と同様、国際的に最低レベルです。参加国の平均は中学校教員が37.5%、小学校教員が36.6%となっています。

国(※一部抜粋)明らかな解決法が存在しない課題を「しばしば」または「いつも」提示していると回答した割合(中学校)
オーストラリア29.2%
ブラジル48.9%
フランス25.9%
韓国38.1%
アメリカ27.6%
日本16.1%

「批判的思考」と比較すると、各国とも低い傾向にありますが、それでも日本は大きく遅れを取っています。

「明らかな解決法が存在しない課題」とは言い換えれば「正解のない問い」です。一律の基準で生徒の能力(下手したら人間性までも)を測る現在の教育システムでは、「正解のない問い」を提示しても、生徒の多様な回答に対して判定できない・点数がつけられないという背景があると考えられます。

全体主義的な空気

先日とある都立高校の「校則でツーブロック禁止」が話題になりました。この校則の意義を問う質問に対する教育委員会の回答は「外見等が原因で事件や事故に遭うケースなどがあるため、生徒を守る趣旨から定めている」という主旨でした。はたしてほんとうにツーブロックにするだけで、事件や事故にあいやすくなるのでしょうか。

このような事例はほんの氷山の一角に過ぎず、各地の学校では生徒からすると「なぜだめなのか?」と問いたくなるような校則や暗黙のルールが数多くあるでしょう。しかし疑問に思ったとしても、ルールには従わざるを得ず、批判の声も上げづらいことがほとんどです。

政府に反対することを禁じ、個人の利益よりも全体の利益を優先する体制のことを全体主義といいます。組織が定めたことに従わざるを得ない、また異を唱えたものを爪弾きにするような現在の学校は、まさに全体主義的な空気に包まれているといえるでしょう。

批判的思考とは

ここからは日本の教育が世界に遅れを取っている「批判的思考」にフォーカスして説明します。

批判的思考とは、物事を論理的・多面的・客観的にとらえる思考のことです。「クリティカル・シンキング(critical thinking)」とも呼ばれ、問題解決能力、コミュニケーション力と並び、21世紀以降の国際社会を生き抜くために欠かせない「21世紀型スキル」のひとつに挙げられています。

また、日本の学校教育制度の根幹を定める「学校教育法」第51条3項には次のように記されています。

「個性の確立に努めるとともに、社会について、広く深い理解と健全な批判力を養い、社会の発展に寄与する態度を養うこと」

このように「批判」する力を養うことが必要であると国も認識しています。ただしこれは「高等学校の目標」について定めたもので、小中学校を対象としていないことには留意が必要です。

批判と非難

批判というと、人や物事を「非難」することと同義と捉えられることが往々にしてあります。しかし、批判と非難はまったく別物です。

非難は「相手の欠点や過失を取り上げて責めること」(出典:三省堂『大辞林』)。

一方で、批判は「物事の可否に検討を加え、評価・判定すること」「誤っている点やよくない点を指摘し、あげつらうこと」(出典:同)と定義されています。

批判的思考の要素とポイント

批判的思考について研究している京都大学大学院教育学研究科の楠見孝教授によると、批判的思考には下記3つの要素から構成されています。

  1. 証拠に基づく論理的で偏りのない思考
  2. 自分の思考過程を意識的に吟味する省察的(リフレクティブ)で熟慮的思考
  3. より良い思考を行うために目標や文脈に応じて実行される目標指向的な思考

また批判的思考において大切なこととして次の2点を挙げています。

  1. 相手の発言に耳を傾け、証拠や論理、感情を的確に解釈すること
  2. 自分の考えに誤りや偏りがないかを振り返ること

参考:楠見孝『良き市民のための批判的思考』

批判的思考力の欠落が引き起こす行動

批判的思考力が身に付いていないと、人はどのような行動をとってしまうのでしょうか。実際に世の中で起きている具体例を挙げつつ解説します。

権威に対する無条件の信頼

新型コロナウイルスの感染拡大が世間を騒がすなか、うがい薬が「コロナに効くのではないか」と某知事が公に発言したことで、ドラッグストアからうがい薬から消え、ネット上で高額転売される事象が起きました。

一連の出来事に対して、「科学的根拠に乏しい」「買い占めや転売を煽ることが予想されたのでは」といった非難があちこちから湧き上がり話題になりました。たしかに扇動につながりかねない軽佻な発言と取られても仕方がないでしょう。

しかし知事の発言も問題ですが、そもそも「科学的根拠に乏しい」発言でドラッグストアに駆け込んでしまうような行動をとる人にも問題があります。このように公権力を持つ人や影響力の大きい人の発言や行動に対して、無条件の信頼を抱いてしまう人には批判的思考力が欠如しているのです。

批判的思考力を正しく身に付けていれば、どんなに偉い人や尊敬している人の言うことであっても、偏りなく論理的かつ多面的に考えを巡らせ、自分なりの判断を下すことができます。

同調的な言動

先生が「A」と言っている、クラスの生徒たちも「A」と言っている、しかし自分は「B」だと思う。そのような場面で「Bだと思います」と発言することはとても勇気のいることです。もし「B」といえば、非難を浴びるかもしれません。

このように同じ方向(A)に向かざるを得ない空気や、見えないプレッシャーのことを「同調圧力」といいます。批判的思考が弱い人は、「みんながそう言うならそうだろう」と自分の頭で考えることを放棄し、右向け右をしてしまいます。

しかし、本来であれば「B」という考えにいたった理由があるはずで、先生や他の生徒もそのことについて意見を交わし思考を深めることは意義のあることです。異なる文化を持つ人たちが共同して仕事や生活をすることが当たり前になっている現代社会において、自分の意見を持つことと、多様な意見に耳を傾けることはますます重要になっています。

注意として、同調的な行動は必ずしもマイナスの側面ばかりではありません。コロナ禍において世界的に日本人のマスク着用率が高いのは、実は同調圧力が一因としてあります。

同志社大学心理学部の中谷内一也教授の研究「人々がマスクを求めた本当の理由」によると、日本の人々がマスクを着用したのは「他の着用者を見てそれに同調しようとする傾向と強く結びついており」、「本来の目的であるはずの、自分や他者への感染防止の思いとはごく弱い関連しかない」ことが判明しました。

もちろん本来の目的である「感染防止の思い」を持つに越したことはないのかもしれませんが、結果としてマスク着用率が高くなったことはポジティブに捉えられるでしょう。

批判的思考力を鍛えたい人におすすめ本3選

批判的思考力の習熟機会を学校に期待できない人はまずは本を読んで知識をつけ、それから実践していくことをおすすめします。ここでは批判的思考力を鍛えることにつながる本を3冊選んでみました。

『批判的思考』楠見孝

上述「批判的思考の要素とポイント」のなかで引用した京都大学大学院の楠見教授の著書です。批判的思考の概念から、批判的思考を活かせる日常の場面までわかりやすく解説されています。

『FACTFULNESS』ハンス・ロスリング

統計をもとに世界の実情を語るTEDトークで世界的に有名な医師ハンス・ロスリングの著書です。ファクトフルネスとは、データや事実にもとづき、世界を読み解く習慣のこと。思い込みから己を解放し、世界を正しく見るスキルについて解説されています。

『知的複眼思考法』苅谷剛彦

情報を正確に読みとる力、ものごとの筋道を追う力、受け取った情報をもとに自分の論理をきちんと組み立てられる力……これら自分の頭で考えることに欠かせない力を身に付ける方法について解説した本です。

まとめ

いまだ産業革命以降の負の遺産を学校教育に引きずり続けるニッポン。「時代遅れの教育スタイル」に危機感をもつ教育者や有識者は多いものの、なかなかすぐに変わらないのが実情です。今回は「批判的思考」にフォーカスしましたが、わたしたちが「常識」だと思っていることが世界的に「非常識」であることはまだまだあります。ぜひ批判的思考を身に付け、これからの社会に真に必要な“常識”を自らつくっていってください。

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