近年、PBLと呼ばれる新しい学習法が注目されています。教科書や参考書で学べる「知識」の幅を超え、知識を活用しながら「思考」と「行動」をすることに重きを置くことにより、さらに主体的な学びができるようになりました。
今回は、PBLとはどんな学習法なのか、注目されるようになった背景や採用するメリットについて幅広く触れながら解説します。PBLを活用している大学についても触れますので、大学選びの参考にしてみてください。
PBLの概要
まずは、PBLがどんな学習法なのか解説します。従来の学習法・SBLとの違いについても触れますので、比較しながら理解していきましょう。
PBLとは
PBLは、問題解決型学習(Project Based Learning)のことを意味します。アメリカの教育学者ジョン・デューイが考案した学習理論であり、学習を能動的に進め、知識の暗記や教師からの教えを乞うだけの受動的な学習から脱却するための方法として広がりました。
素朴な疑問や問題を抱く気持ちを重視し、成り立ちや解決方法を自ら模索していく学習ステップを踏むことで、実用的かつ実践的な学びを可能とします。
SBL(科目進行型学習)との違い
PBLに対し、従来の学習法はSBL(Subject Based Learning)や科目進行型学習と呼ばれます。教科書や参考書を使って基本的な知識を入れるところから始め、基礎から応用へのステップを踏んで進行するのが特徴です。
学びの体系がある程度決まっているため、多数の生徒に対しまとめてレッスンが行えるというメリットがある一方、暗記を偏重する学習であるというデメリットもありました。
SBLは得た知識を問題解決のために使用するための方法であり、PBLのように「問題ありき」での学習には対応しきれないという現状があるのです。
PBLが注目されるようになった背景
近年PBLが注目されるようになった背景を理解していきましょう。海外だけではなく、日本における背景を理解することで、学習の意義が高まります。
アクティブラーニングの広まり
世界的に、アクティブラーニングが広がったことが1つの要因として挙げられます。学習する生徒側が主体となり、相互コミュニケーションを取りながら学んでいくことで、学習効果を高める効果が期待されています。
特に、思考力・判断力・表現力など自由な発想や、学んだ知識を分野の縛りなく横断的に活用する応用力が身に付くとして注目されています。
PBLも、アクティブラーニングの1種として考案された学習法です。
新しい学習指導要領の採用
2020年に行われる学習指導要領の改定において、日本の学校教育現場におけるPBLの実施について触れられています。学校だけに留まらず家庭や社会などさまざまな学習の場を意識したテーマ設定を行い、より実践的でイメージしやすい学びを重視する傾向が出てきました。
また、プログラミング教育、外国語教育、道徳教育も導入され、知識だけに頼らず実際に自分の手足を動かしながら学んでいく方法が確立されつつあります。高校や大学の入試においても、科目横断型の設問や表現力・思考力を問うような設問がこれまで以上に多くなっていくでしょう。
学習指導要領の改定により、PBLは今後さらに広がっていきそうです。
「生きる力」への注目
新しい学習指導要領のなかで、「生きる力」というキーワードが取り上げられています。「何を学ぶか」「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」の3つを自ら決めながら学ぶことで、グローバル化社会や情報化社会でも柔軟に対応できる能力を育てようというものです。
時代と共に急速に変化していく知識や技能を全て学ぶことは非常に大変ですが、その根幹となる「生きる力」を培うことで、発展的な学びを広げられます。
PBLによる6つのメリット
次に、PBLを活用することによるメリットを解説していきます。
知識を応用する力が身につく
PBLを活用することで、知識を応用する力が身につきます。教わった知識を、ただ問題を解くための手段として利用することに留めず、日常生活のさまざまな問題に当てはめて考えたり、他教科の知識と組み合わせて考えたりすることで、新しい発見につながります。
知識が定着しやすくなる
自ら考えて行動しながら学習していくことで、知識が定着しやすくなります。定期試験や入試が終わったら忘れてしまうような一時的な詰め込み学習ではなく、自分で試行錯誤しながら思考する勉強をしていくことで、やがて自らの知識・経験として定着させる効果が得られます。
自由で柔軟な発想ができる
PBLの学びには「正解」や「間違い」がありません。自分で考えた解決法や案を実際に検討してみて、もしそぐわないものであればまた次の案を考える、ということを繰り返しますから、試験のように点数ではっきり優劣がつく学びではないのです。
正解・不正解を気にせず自分が思考したものを試していくことで自由で柔軟な発想ができるようになり、より一層楽しく学びを深められます。
自分の意見を分かりやすく表現できる
PBLでは、他の生徒・教師・保護者・地域住民・各分野のスペシャリストなど多くの人と関わり合いながら学びを深めます。全員が対等な立場で意見を交換し合うシーンがありますので、自分の意見を分かりやすく伝え、短い時間でも話をまとめてアプローチしていく力が身につきます。
これは実際に社会に出ていく上でも欠かせない能力であり、採用面接の場はもちろん、商談・交渉・議論・接待などのビジネスシーンでも役立ちます。
情報リテラシーを培える
PBLにより、情報リテラシーを培えます。情報リテラシーとは、書籍・テレビ・新聞・SNS・インターネット上のメディアなどさまざまな媒体から能動的に情報を集め、自らが求める内容かどうか、正しいものかどうかを総合的に判断しながら活用していく力のことを指します。
情報社会・インターネット社会といわれている21世紀において、自分の意見を含めながら情報を精査する能力は必要不可欠だとされています。PBLで自発的に情報に触れる機会が多くなることにより、情報の本質や偏りを見抜く力を養えます。
コミュニケーション能力がつく
PBLを進めるにあたり、友人や教師とディスカッションや議論をするシーンがあります。自分の意見を正しく伝える力と共に、相手の話に耳を傾け共感する傾聴力が身につきます。また、相手にとって分かりやすく話を組み立てる構成力や、声のトーン・姿勢・話すスピードなどノンバーバルコミュニケーション力も伸ばせるでしょう。
年齢・立場・ポジションに関係なくスムーズにコミュニケーションできる力をつければ、学校教育以外の場でも役立ちます。
PBLの方法
では実際に、PBLの方法を段階ごとに説明していきます。
問題を発見する
身近にある素朴な疑問や、解決したい問題、社会的に課題があるとされているテーマについてピックアップします。内容に関する制限はなく、教科書で取り上げられるようなテーマでなくても構わないとされています。
なかなかイメージできない場合は、新聞やニュースから気になる話題を取り上げてみるのがおすすめです。
解決策を提案し合う
まずは、思いつく限りの解決策を挙げていきます。一見突拍子のない意見のように思えるものでも積極的にピックアップし、解決案としての可能性があるものを羅列していきます。
不足している情報を収集する
話し合いを進めていると、途中で不足している情報があることに気がつくことが大半です。さまざまなメディアを活用しながら多角的に情報収集を行い、判断材料を集めていきます。
解決策がベストなものか話し合う
集まった情報を参考に、どの解決策がベストなものなのかを話し合います。フレキシブルに意見を交換するスタイルでも、いくつかのチームに分かれてお互いの主張を元に討論するスタイルでも、どちらを取っても構いません。複数の案を比較・検討しながら進めます。
実行する
ベストな解決策が決まり次第、実行に移します。また、実行するに当たって誰に協力してもらう必要があるのか、場所・日時・人数など詳細を決めていくステップも踏んでいきます。
振り返りを行う
実行後には、振り返りの時間を取ります。思っていたような成果が得られたのか、実行に当たり何が障害として立ちはだかったのかなど、ポイントごとにまとめていきます。
成果発表という形でプレゼンテーションやワークレポートにまとめれば、そのPBLに関わっていない別のチームや外部の人にもシェアできます。
実践には2つのパターンがある
PBLの実践には、2つのパターンがあります。得られる効果に偏りはありませんが、それぞれの特徴や意義を理解することで、テーマごとにどちらのパターンを選ぶべきか判断できますので、1つずつ解説していきます。
グループワーク型
グループワーク型は、少人数のグループを作ってディスカッションや意見交換を行いながら進めていくスタイルです。ほとんどが教室内で完結するため実行の機会はやや少なくなる傾向にありますが、十分な情報収集や相互コミュニケーションを行いながら徹底的に議論できるのが強みです。
政治問題・経済問題・社会問題など、世界や日本全体に課せられたテーマについて考察する際に向いています。
フィールドワーク型
フィールドワーク型は、民間企業や地方自治体と協力しながら、実際に現場で手足を使って進めていくスタイルです。外部の人が携わり実行の機会を増やすことができるため机の上の学びを実社会に活かしていきやすい一方、完了に至るまでの綿密な計画性や細かい配慮などが必要なため、長期での取り組みになりやすいのが特徴です。
事例:N高のPBL「プロジェクトN」
角川ドワンゴ学園N高等学校(通称:N高)は、PBL学習の一環として「プロジェクトN」という授業を行っています。
思考スキル・コミュニケーションスキル・プロジェクトマネジメント・表現スキル・ITスキルなど幅広い能力を伸ばすことを目的とし、数ヶ月単位という長期に渡って1つのプロジェクトに取り組む手法を採用しました。
例えば、持続可能な開発目標「SDGs」をテーマに、農業者の減少による食料自給率の低下や自然災害・輸送障害による輸入停止リスクに目を向け、農業ブランド化の企画・立案を行っています。アジアを代表する環境展示会「エコプロOnline2020」でプレゼンテーションされるなど、発表の機会も用意されています。
また、ヘルスケアをテーマに、健康管理の重要性が若い世代にも広く正確に伝わるよう、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の協力を得ながら、ゲームで訴求する方法を考案するプロジェクトもありました。
具体的な解決策を企画しながら制作物をアウトプットすることにより、自ら考える力を養っています。
PBLを採用している大学
PBLを採用して授業を展開する大学も増えてきています。ここでは、3例紹介します。
三重大学
三重大学は、早期にPBLを導入した大学の1つです。「感じる力」「考える力」「コミュニケーション力」「生きる力」に焦点を当て、「4つの力スタートアップセミナー」を全学年向けに開講しました。全15回の授業一つひとつがPBLとして実施されており、PBLに慣れるためのカリキュラムを踏みながら実践の場に踏み出せます。
湘南工科大学
湘南工科大学は、PBLの根幹となるアクティブラーニングを積極的に導入している大学です。2017年度から新しいカリキュラムを採用し、各学科の専門科目においてPBL授業を展開し始めました。
ICTを活用したアクティブラーニング専用教室があるのも特徴的で、壁面全てがホワイトボードになっていてたり電子黒板として活用できるプロジェクターを複数用意していたり、学生同士の相互コミュニケーションや活発な議論を呼び起こす工夫が成されています。
産業技術大学院大学
産業技術大学院大学は創立当初からPBLに力を入れ、論文に割く時間をPBLに大きく割り当てているのが特徴的です。少人数で構成されたチーム単位でプロジェクトを立ち上げ、実務レベルのテーマを設定して課題に取り組みます。
なかには国際会議運営者向け業務管理支援ソフト「ConfVisor」を開発したチームもあり、実際に複数の国際会議の場にて活用されました。
まとめ
PBLは、教科書や参考書で学ぶ「知識」の幅を超え、幅広い分野の知識を融合させながら実践的かつ応用的な学びを実現する学習法です。学習指導要領の改定や大学入試制度の変更に伴い、今後特に注目されていく学び方ですので、導入している学校の事例を参考に実践してみるのもよさそうですね。